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岐阜地方裁判所大垣支部 昭和24年(ヨ)24号 決定

申請人

全日本自動車産業労働組合

右代表者

中央執行委員長

外一支部

右代表者

執行委員長

被申請人

大平洋工業株式会社

主文

申請人等と被申請人との間に於て大平洋工業労働組合が昭和二十四年四月九日為した申請人全日本自動車産業労働組合東海支部よりの脱退は追て申請人等より被申請人に対し提起する、協約確認、脱退無効確認の本案判決確定に至る迄其の効力を停止する。

被申請人大平洋工業株式会社は申請人全日本自動車産業労働組合並に同東海支部の団体交渉を妨害してはならない。

申請人等の委任する岐阜地方裁判所大垣支部執行吏はこの命令執行の為め適当なる措置を講ぜよ。

申請

岐阜地方大垣支部昭和二四年(ヨ)第二四号仮処分申請事件(昭和二四、五、二〇申請)

一、当事者

申請人 全日本自動車産業労働組合

右代表者 中央執行委員長

外 一支部

右代表者 執行委員長

被申請人 太平洋工業株式会社

二、申請の趣旨

一、申請人等と被申請人との間に於て太平洋工業労働組合が昭和二十四年四月九日為した申請人全日本自動車産業労働組合東海支部よりの脱退は追て申請人等より被申請人に対し提起する。協約有効確認、脱退無効確認の本案判決確定に至る迄其の効力を停止する。

一、被申請人太平洋工業株式会社は申請人全日本自動車産業労働組合並に同東海支部の団体交渉を妨害してはならない。

一、申請人等の委任する岐阜地方裁判所大垣支部執行吏は前項の妨害ある場合は之が排除の為適当なる措置を講ぜよ。

との仮処分命令を求める。

三、申請の理由

(一)、申請人全日本自動車産業労働組合(以下本部と略称する)は全日本の自動車産業に従事する労働者を以て組織する(本部規約第二条)労働組合法上の労働組合であり申請人全日本自動車産業労働組合東海支部(以下東海支部と略称する)は東海地方内に於ける右本部に加入したる労働者を以て組織する労働組合であり、被申請人太平洋工業株式会社は自動車タイヤ、チユーブのバルブ及バルブインサイド等の製造販売を業とするものである。

尚被申請人会社に被傭せられ居る労働者を以て組織せられたる太平洋工業労働組合は昭和二十三年三月二十五日申請人全日本自動車産業労働組合に加入し、同年四月十日其の旨岐阜県労政課へも届出をなし全日本自動車産業労働組合東海支部太平洋工業分会(以下分会と略称する)と称することになつた。而して右本部が単一組として発足する準備会時代に於て之と被申請人太平洋工業株式会社との間に於て昭和二十二年九月二十日覚書と題する労働協約を締結し、申請人組合の団体交渉権を承認せしめ、申請人組合に加入したる太平洋工業労働組合以外の労働組合は之を認めないことにした。

随て被申請人会社が前記昭和二十三年三月二十五日以後は申請人全日本自動車産業労働組合に加入したる太平洋工業分会以外の労働組合を認めたり、又は申請人等組合の団体交渉権を認めないことは何れも右協約に反する違法の行為であると謂はねばならない。

(二)、ところが被申請人会社は最近の業界不振に籍口して従業員七十二名(総従業員の約二割)を馘首しようと企み、之を企業整備による過剰人員なりと言つて昭和二十四年二月十六日の経営協議会に於て分会に申入れたが意見の一致を見ず、翌十七日分会の評議員会(分会規約第七条)が開催されたが馘首反対の決議がなされた。そこで被申請人会社は分会の御用幹部近藤廣雄、小久保清司、加藤善四郎等を手馴付けて右整理案に賛成せしめようとした。それは被申請人会社と分会との間には従業員の解雇は分会の協議がなくては行へない(労働協約第四条)ことになつているからである。そして再び昭和二十四年二月二十五日分会の評議員会に於て此等の幹部は馘首止むなしと提案したが反対され、同日の分会臨時大会に於いても絶対多数を以て馘首反対の決議がなされた。そこで被申請人会社は今度は組合員三十四名(労働運動に熱心なるもの過半数を含む)を馘首はしないが待機せしめ適当なる時期に就業せしめる案を右御用幹部を使用して同年三月七日の臨時大会に附議せしめ、漸く「馘首は前提としない」といふ条件附にて可決せしめた。このやうにして暫時組合の団結力を切崩し弱くなつたところを見計つて当初の馘首を実行しようとしたのである。次で同年四月四日前記の御用幹部等は評議会に諮り右の待期者を馘首しようと提案したが否決された。それにも拘らず執擁にも同日更に臨時大会にも之の提案をしたが反対の決議がなされた。尚この大会に於て分会は馘首反対の為の闘争体勢に入ることになつた。これに驚き右御用幹部等は被申請人会社は結託して分会の団結力を切崩し、之を弱体化せしめようと狂奔し再建同志会なるものを作り、職制上上位にある地位権威を利用して之に従業員を加入せしめ、会社の整理案に賛成せしめようとし、若し加入しなければ労働条件の劣悪な職場に転換するとか解雇にするとか不利益が与へられるであらうことを露骨にも従業員の私宅を訪問して申し向けたり、重役室に呼び寄せて暗に仄かし右同志会に可弱き女子従業員を強要して加入せしめた。御用幹部等はかような卑劣なる手段によつて従業員多数を牛耳ることが出来るようになつたので、遂に同年四月九日一旦流会になつたのにも拘はらず、強引にも分会員三分の一以上の要求ありと詐称して分会臨時大会を開催し、待期者三十名(三名は復帰これは当初より馘首反対運動をスパイし、又は会社の御用を務めた功績による)の馘首承認と申請人全日本自動車産業労働組合よりの脱退との二つの決議を押し通してしまつた。そして申請人東海支部へ分会は脱退する旨の通知をなし、又岐阜労政課へは同年四月十一日右脱退の届出を為し、これに依り以前の太平洋工業労働組合になつたと言つて名称変更をなした。

この大会の模様は被申請人会社の人事係近藤廣雄が音頭取りとなつて、恰も軍隊の指揮官の如く女子従業員に号令を掛け、その命令のまゝ羊の如く柔順に従つたもので極めて非民主的であつた。それは以上の如く再建同志会幹部に付き纏はれ蛇に睨まれた蛙のやうで自由なる意思の表明が許されなかつたのである。

随つてこの様な大会の決議は表面的には為されても次の如き理由により当然無効である。

一、先づ分会員三分の一以上が真実右臨時大会の開催を要求したものでない。したがつて分会規約第六条所定の適式なる大会でないから、そこで決議されたとしてもそれは法律上無効である。

二、仮に然らずとするも右決議は分会員の自主的な意見の表明されたものでない。単に被申請人会社の御用幹部に盲従的に牛耳られ形式上の決議が為されたに過ぎない。それは斯る組合員に不利益なる大会を強引に開催され、然も会社の利益代表たる近藤廣雄により牛耳られ居る一事に以てしても労働者の地位の安定向上を図るべき労働組合の使命に鑑み当然首肯し得るところである。又前記の如く御用幹部により再建同志会の潜行運動が労働組合法第十一条違反を敢行して反復累行された後漸く押し通されたもので如何に不自然であり自主性が歪められているかは右大会に先立つ短期間内の幾度かの評議員会又は分会臨時大会に於て之と相反する決議が為されている経過に徴し余りにも明かなるところである。

三、脱退に付ては仮りに決議が有効であるとしても本部規約第二十七条により中央執行委員会の承認を要するのであり、之なくしてはその効力を発生する由がない。而して本部は斯る非民主的な大会の脱退決議は之を認めないのである。然るに前記の如く御用幹部等は脱退により以前の太平洋工業労働組合に戻つたので名称が変更したに過ぎないと言つている。

三、茲に於て申請人等組合の執行部は斯る非民主的なる大会のやり直しを右御用幹部等に要求す(疎第十七号証)この大会の決議や被申請人会社の不当なる解雇に反対して日夜苦闘を続けておるものであり、現に岐阜県労働委員会に対しては労働組合法第十一条違反並に太平洋工業労働組合が労働組合法第二条に違反するものであるとの理由による組合資格否認の提訴を為し、目下右委員会の斡旋が試みられている。ところが被申請人会社は既に分会が申請人全日本自動車産業労働組合より脱退し、申請人同東海支部へはその届出もしたからもはや今後は申請人等とは無関係となり何等申請人等の団体交渉には応ずることが出来ないと言つて申請人等の数回に亘る団体交渉の申込をも拒否し、工場正門には守衛を立たしめて之に申請人等を入場せしるなと厳命し、正門入口を塞いで警戒せしめ申請人等の団体交渉を取合はざるのみか之を妨害して居る現状である。

然し労働組合の団体交渉権は憲法第二十八条労働組合法第十条により保障され居る重要なる権利であつて、これなくしては労資対等等の原則によるフエアープレーはなされない。したがつて申請人等は御庁に対し脱退無効確認の本案訴訟を提起しようと目下準備中であるが、労働争議は時々刻々と変化する生きすのであつて被申請人会社が労働協約に違反して申請人等の団体交渉に応じない。違法の状態が此の儘続けば申請人等組合は恰も手足を奪はれた如く公明なる組合活動は期せられないし、又労資闘争のフエアープレーは全く柔躙されて申請人等の団結団体交渉権は現に回復することの出来ない損害を蒙つているで本申請に及びたる次第である。

岐阜地方裁判所大垣支部御中

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